探し物




 毎日毎日、見たくないものばかりみてしまう。好きでこうして生まれてきたわけじゃないのに。

 俺の名前は土御門 成明(つちみかど なりあき)。かの有名な陰陽師の子孫だそうだ。
 そして、俺が持つ力は、その安倍 晴明さまとやらの力に近いらしい。小さい頃から見たくもないおどろおどろしいものを見てきた。親父が言うには、その怨霊を見られるのはほんの一部の人間で、しかも修行をしないと見られないらしい。なんで俺は見えるのか。そんなもの見たくないのに。それが、晴明公の力だそうだ。
 …嬉しくもなんともない。

「調伏」

 しゅう…と静かに怨霊が消えていく。調伏術も、陰陽術も覚えたくなんかなかった。
でも、自分の身を守るためには覚えるしかなかった。

『ほう、だいぶ力が落ち着いてきたようだな』

 頭上から声が聞こえる。それはことのほか珍しいことでも何でもなく。常に俺の頭の上で様子を見ている。

「また出たか。あんた、そこにいるんだったら怨霊とか来る前に消してくれよ」
『おれは人の身ではないからな、そのようなことは出来ぬよ』

 楽しそうに笑う。この頭上で話かけてくるのは『安倍 晴明』その人だ。こんないいかげんな奴が、かの有名な陰陽師とか言われると、自分がこんな奴の子孫かとちょっと情けなくなってくる。

『ところで成明、調伏しそこねてるぞ』
「は?」
『ほれ』

 見上げればうっすらと晴明が見える。その晴明が指差している方向には、今さっき調伏した怨霊がのそのそと動いている。再生する力を持っている怨霊か。
『はよう調伏せぬと、また襲い掛かってくるぞ』

「わかってんだったら早く言え!!」
『ふふん、それくらい気づけよ』

 憎たらしい奴だ。怨霊が現れるのを見ることが出来る。そしてそれを俺に教えることもできる。力の制御とかも助言してくれる。
 …てか、お前が消しやがれ!
 と、小さい頃から思うのは普通だろう、多分。

「おい、こいつ、どうすれば消せるんだ?」

 怨霊の吐く瘴気で気持ち悪くなってくる。一度調伏したはずの怨霊が消えずに残っている、というのはその怨霊自体が怒り狂ってることが多い。
 簡単に言えば、一度つなぎとめた鎖から逃げ出したということだ。無理やり縛られてそこから逃げられたんだからそりゃ暴れもする。

『結界内に閉じ込めろ』 
「わかった」

 晴明の言うように五芒星を描いて、結界を作る。怨霊をその中に押し込める。

「"縛"!」

 怨霊がぎぃぎぃうなる。

「お前の居場所はここじゃねぇんだよ……」

 調伏。結界に閉じ込めた怨霊が叫びを上げながら消えていく。今度はちゃんとしとめたらしい。

『おう、今度は大丈夫だな。成明でも成長するものだな』
「うるせぇ!」

 見たくもない怨霊。そして俺の頭上の晴明。これが俺の日常。どこへ行くにでも付きまとう影。
 …うるさくてしょうがない。

『秋陽(あきひ)のところへ行くのだろう?はよう行かねば間に合わぬぞ』
「おまえ、秋陽のとこまでついてくる気か!」

 秋陽は俺の彼女だ。ただし、秋陽もちょっとした力がある。先見ができる。
 俺が安倍家の子孫で、あいつは賀茂家の子孫。とは言っても、賀茂家のもつ陰陽の力はあまり強くはない。先見の力がかなり強いらしいが。

『ふん、秋陽にちょっと用があるのでな。ほれ、先に行くぞ』

 ひょい、と風にのって晴明が消える。

「おい、晴明!!」

 空を飛んでるのかなんだかわからない。そんな簡単に移動しやがって。走ってる俺はなんなんだ。

◇ ◇ ◇ ◇


『おい、成明』
「晴明?戻ってきたのか?」
『…秋陽がおらん』
「はぁ?まだ時間前だからじゃねえのか?」
『なにを言うている、もう時間はすぎておる』

 腕時計を見ると、既に約束から15分過ぎていた。またしても遅刻したらしい。なんだかんだと怨霊に手間取ったりしてよく遅刻する。秋陽はいつも怒らないでいてくれるけど。
 怨霊を相手にしてきたのがわかるから、だろう。怨霊に会わなければ間に合う。っていうか、俺は時間には正確なんだ、本当は。

『秋陽の気配はあるのだが、秋陽がおらぬ。急ぎ行き、調べろ』

 晴明の顔に焦りが見える。俺の頭上に晴明がいるように、秋陽の後ろには保憲がついている。晴明の師匠、賀茂 忠行の息子だ。
 晴明と保憲の時代では、どちらも陰陽師としての力はすごかったらしい。…そんな裏世界の日本史には興味はないからよく知らないけど。秋陽に用がある、というより保憲に用があるんだろう、と思いつつ急いだ。俺は秋陽が心配だから。

「……秋陽?」

 待ち合わせの場所に、秋陽はいない。だけど、そこにいた形跡は感じられる。秋陽と保憲はここにいた。俺と晴明を待っていた。でも、今はいない。どこへいったんだろう。ケータイを手にとって、秋陽に電話をしてみる。
 ……誰も出ない。

「どういうことだ?」
『わからぬ。何か手がかりになるものはないのか?』

 秋陽のいただろう気の流れを辿る。公園前で待ち合わせたんだけど、公園のなかまで気配は残っている。公園の中の大きな木のそばで、気配が途切れる。

「ここで途切れてる。晴明、何かわかるか?」
『少し待て』

 ぼそぼそと何か唱える。人としての身ではなくなっていても、晴明の力はあるらしい。あるんだったら俺に群がる怨霊も消して欲しいっての。

『……成明』

 すい、と晴明が指を指す。その先には、大樹の幹に何か書かれている。

「これ……なんだ?」
『保憲どのだ。なにがあったんだ?』
「"白霧の間"……なんだ、これ?」

 “白霧の間”?
 聞いたことあるようなないような…?晴明もおれの頭上で何か考え込んでいる。

「晴明、“白霧の間”ってなんだ?」
『“白霧”……そうか、そう言うことか』
「なんだよ、なんかわかったのか?」
『ゆくぞ』
「はぁ?!」
『ついて来い』

 つぃ、とまた風に流れるように飛び出す。なにがなんだかわからない。“白霧”…なんだっけ。思い出せないまま、俺は晴明の後をついていく。何度か晴明に聞いてみたけど、晴明は答えない。一体なにを考えてるんだか…。
 そんなことよりも秋陽を捜し出すのが先だ。俺は小走りに晴明の後を追いかけた。

 


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