3:ハジマリ






 人と人が関わるという縁はとても不思議なものである。
 普通に考えたら、こんなことが起きるとは誰も思わないだろう。偶然に偶然を重ねて偶然が降りかかる。そんな偶然だらけの出来事なんて、そうそうない。歌や本で『世の中に偶然はない』と言われていることがあるが、この場で起きていることが必然だとか運命だとか思えるほど、ゆきは前向きではなかった。

「とりあえず、おーつかれー!」
「お疲れー」
「お、お疲れさまデス……」

 かちん、とビールジョッキを合わせて、ごくごくと最初の一口。ビールというのは最初の一口が一番旨い。その後も旨いと感じるかどうかは、人によって大きな差があるようだけれども。
 ゆきの仕事帰りに偶然会ったのは、同じ会社の人間で、そのあとまたしても偶然会ったのは、先日の飲み会で遭遇した彼──龍二である。
 龍二の友人、楠原とまで遭遇してしまったためにか、現在、三人で呑みに来ていた。ゆきとしては、少しばかり居心地が悪い。ほぼ見知らぬ人といきなり呑んでいるのだから、仕方のないことである。

「じゃあ、改めて、楠原です。サテライト・フィッツって事務所に所属してます」
「え、事務所まで言うの!?」
「そらそーだろ。っていっても、暁さんは事務所の名前言われてもわからんかー」
「はあ……すみません」

 いやいや、と楠原が顔の前で手をひらひらとさせた。
 普通の俳優だって事務所の名前を知らないなどザラにあることである。ましてや顔もあまり知られていない「声優」という職業の彼らが、事務所まで知られているなど、ファンでもなければありえないものだ。逆に言えば、ファンは所属事務所を知っているのが普通のようでもあるけれども。

「ほら、マサ」
「えー、あー、さっき名乗ったばっかりですけど、真幸龍二です。所属事務所はスタイラス」
「ちなみにスタイラスってのは業界最大手って言われてる。で、スタイラスの超売れっ子がマサ」
「超売れっ子ぉ!? 何だそれ、聞いたことない、オレ」

 おかしそうに龍二が笑う中、ゆきは「ほへー」という顔をしていた。所属事務所を聞いてもさっぱりどんなところか想像もつかないのだが、業界最大手の売れっ子声優さんだというのだから、きっとその手のファンたちには大人気なのだろうな、と。
 楠原と龍二は同じ養成所に通った仲間ではあるけれども、事務所は違うらしい。養成所、というと専門学校みたいなものだろうか、それとも訓練所みたいな? 少しばかり乏しい想像力を駆使してみたが、ゆきにはやっぱりなかなか想像できなかった。

「ま、ま、あんまり考えなさんな。ちょっとふつーのサラリーマンとは違うけどさ、人的には普通だから」
「え、クッシー普通だったの? オレ知らなかったな」
「うわ、何それ! ひどくない!?」

 ゆきから見て、この二人はとっても仲が良いのはわかる。いかにもほのぼのな雰囲気が、思わずゆきを微笑ませる。そういえばこういう雰囲気は最近なかったな、などと思いながら。
 ゆきの現在の仕事では、こういう環境はまず望めなかった。彼女は別にそんなに無愛想ではないのだが、自分から話しかけたりすることが苦手で、うまく話をするきっかけを作れないのだ。飲み会などとなればまた話は違うのだが、飲み会でさえも、そういうきっかけを作ることが出来ていない。
 なぜなら、飲み会の場でも会社でも、社内の人間の対応が変わらないから。
 飲み会だから、あまり接点のない人とでも会話をしてみる。それは普通のことのようであるが、ゆきの会社の人たちにはそれがないのだ。それどころか、下手に話をすれば冷めた目で見られる。ならば何もせずにおとなしくしているほうが得策だ、とゆきは飲み会に参加することもほぼない。
 ここまで内向的ではなかったのだが、いつのまにか、他人を話すことが極端に減っていた。

「はい、じゃー次、暁さんね」
「へ?」
「自己紹介!」
「え、あ、でもさっき……」
「はいどぉーぞ!!」

 店に来る前に名前は名乗っているし、自己紹介と言われても……! とちょっと焦った顔でゆきは二人をみる。楠原も龍二も、楽しそうな顔をしていた。
 思ったよりも、というのが龍二の印象である。最初に会ったときは、とにかくつまらなそうな顔をしていた。飲み会がつまらないのかな、と思った龍二だったが、本当にそうだったようだ。
 何より、最初に会ったあのときより、格段に顔色が良いし、大きな目がきょろきょろと楽しそうに動いている。あの無表情っぷりと、「機嫌が悪い」と微笑んだときとはまるで別人のようでもあったが、今はさらに別人のようである。

「え、えと、暁 ゆき、30歳、会社員です」
「30!?」

 それに驚いたのは、龍二と楠原、二人ともだ。なにやらとんでもなく驚いていて、二人とも目がきょろんとまん丸になっている。ある意味、見事だ。

「うわー、見えないねー」
「そうですか? あ、ちっちゃいからかな」
「ちっちゃい? そうかな」

 それにもまた意外、という顔をして龍二がゆきを見る。確かに龍二から見ると、ゆきは小さい。が、それほど小さいという印象は無かったのだ。だが、実際身長を聞いてみると、少し小さめ、ではあった。なるほど、と二人が頷くが、楠原いわく、同業者では結構背が低い女の子が多いらしい。ゆきよりも小さな子は結構いるのだという。
 まあ、さすがに原因などわかるはずもないのだけれども。

「それにしても、んじゃオレたちと3つしか変わらないんだね」
「3つってことは……27歳ですか」
「ぶっ」

 ゆきが当然のように彼らを自分より年下に計算して言うと、彼らは盛大に吹き出した。ビールを飲みかけていた楠原など、頬を思い切り膨らませて顔を紅くしている。このまま笑い出したら、ビールがだらーっとなることだろう。ちょっと汚い。
 だが、それぐらい彼らには衝撃的だったらしい。

「上! 上だから!!」

 上、といいつつ天上を指差す龍二に言われて、首を傾げてゆきは天井を見上げた。そこにあるのは、店の灯りだけである。別に目新しいものはない。

「うえ……?」
「違う違う、天井じゃないから!」

 思わず笑いながらツッコミを入れる龍二だが、楠原は口に含んだビールを何とか飲み干してげらげらと笑っている。

「すげー天然!」
「え、天然じゃないですよ」
「いや天然だって」

 楠原に言われて否定したゆきだったが、即座に龍二に否定された。どうやら二人には天然認定されてしまったらしい。ゆきとしては少しばかり悔しい。
 ゆきは自分のことを天然だとは思っていない。だが、天然だと言われることは少なくない。どこが天然なんだ、とツッコミたくなるときもあるのだが、そういうときに限って口がうまく回らなくて噛んでしまったりするのだ。

「えーっと、何の話だったっけ?」
「あ、そう、上って?」
「まだそこか!!」

 ゆきが尋ねると、楠原がまたひざを叩いて笑い始めた。何もそんなに笑わなくてもよかろうに、とゆきが少しだけ冷めた目をする。

「オレたちの年齢。暁さんより、三つ上ってこと。オレたち33だから」
「……………………。ええ!?」
「遅っ」
「え、だって、うそ、そんな年に全然見えな……あ、そうか、芸能人って若く見えますもんねぇ……いいなあ」
「いいなあ、って暁さんのがよっぽど若く見えると思うけど」

 確かにゆきは年相応にさえ見られたことがあまりない。基本的に年下にしか見られないのだ。昔はあまりに年下に見られるから複雑な心境だったが、この年になるとそれはそれで良いと思えてしまうものである。
 そして対する龍二と楠原は、昔はそれなりに年相応だったり、少し老けて見られたりしていたものだ。だが、声優とはいえども、時にイベントなどで人前に出ることがあるからだろうか、年相応に見られることは最近減ってきていた。龍二も楠原も、二十代半ばから後半に見られることは多い。貫禄、というものには少し縁が遠そうな二人だった。
 ゆきも彼らもお互い仕事でも縁がなければ、友人関係でも縁があるわけでもない。ということで、何を話せばいいのかわからない、といった様子のゆきではあったが、そこは連れてきた楠原がどうやらキーマンらしい。楠原が話をいろいろと振ってくれるおかげで、なかなか途切れることは無かった。
 酒も進み、ゆきもまた楽しそうに笑っていた。仕事の話をいくつかしてくれるのだが、ゆきはまったく知らない。それでも、楠原と龍二が二人がかりで丁寧に説明を交えてくれる。
 そのおかげもあって、ゆきの表情が会社の飲み会の時のように不機嫌笑顔になることはなかった。

「あれ、暁さん、携帯鳴ってない?」

 ぶーん、と音が響いているのを聞いて、龍二が首を傾げた。もちろん、龍二も自分ではないことは確認していたが。

「あ、ちょっとすみません」
「どうぞどうぞ」

 ちょうど楠原がお手洗いにと席をはずしたときに、ゆきの携帯が震えていた。サブディスプレイには、『ちや』の文字。ゆきの親友からのメールである。そしてなんてバッドタイミング。

『ちょーイライラしてんだけど! 呑みに行かない?』

 現在進行形で呑んでますゴメンナサイ。
 心の中で即刻ゆきは謝った。
 ちやとゆきの家は近く、よくお互いの家に遊びに行ったりもしている。週末になれば大抵顔をあわせているし、今更取り繕うこともほとんどないような間柄だ。今度引越しするときは一緒に住もうか、などという会話が出てるほどに。
 そのちやがとにかく不機嫌らしい。メール画面には怒りマークの絵が並んでいる。おそらく仕事でよほどイラつくことがあったのだろう。ここ最近、ちやはよく仕事の愚痴を言ってきているので、ゆきにもそこまでは容易に想像できた。

「どうしたの? 大丈夫?」
「あ、はい。友達からでした」
「え、友達? 何、呑みに来る?」
「は!?」

 戻ってきたばかりの楠原が、いきなり上機嫌で言い出した言葉にゆきが目を丸くした。いきなり見ず知らずの人との酒飲みにつき合わせられるわけがない。ゆきだってまともに『知人』になったのは今日が最初なのだから。

「楠原、お前はそーやって簡単に言うなよ。暁さんだって今日無理やり連れてきちゃってんだから」
「あ、いえ、楽しませてもらってますから。まあ、確かにほとんど初対面ですから驚きましたけどね」
「だよねえ。ホントごめん。ホラ、楠原もちゃんとお詫びしなさい」
「あーうーん、ごめんなさい。でもホラ、せっかくの出会いだし! きっかけは大切にしないといけないじゃーん?」
「まあ、それもそうだけどさ。暁さん、気を悪くしてないといいんだけど」
「え、そんなことないですよ。楽しかったですから」

 にこりとゆきが笑う。龍二は心の中で再び思う。この間はよっぽどいやだったんだなあ、と。
 先ほどから楽しそうに笑っているゆきを見ていると、先日のことは本当に嘘のようだった。そういえばあの時は、花束を頭に思いっきりのせられた。花の匂いがくさいのだと言って。
 それを思い出した龍二は、思わずくすりと笑う。

「ナニ、思い出し笑い?」
「いやちょっと」
「なんだよ、何か面白いこと?」
「あー、うん、この間の打ち上げの帰りの暁さんをちょっと思い出して」
「え、私?」
「そう。くさいってやつ」
「うっ!」

 女の子の大半が「かわいい」と言って喜びそうな花束を持って、彼女は言ったのだ。「くさい」と。花の甘い匂いがくさい、といった。龍二の周りにはちょっといないキャラクターだな、と思ったから、そのときのことは結構はっきりと覚えている。
 まあ、だからこそ、仕事帰りのゆきに話しかけることも出来るほど、ゆきの顔を覚えていたのだろうけれども。

「だ、だってくさいじゃないですか」
「いやあ、珍しいって。っていうか、暁さん、お友達にメール返した?」
「あ、今やってたところです」

 そう言ってゆきが携帯電話に目を落とす。龍二はその姿を見ていた。ぽちぽちと携帯にメールを打つ姿は、それほど慣れていないようにも見えた。いや、おそらく世の中の若い子たちの異様な速度のメール打ちをゆきがやっていたらおかしいだろうな、とは思うのだけれども。

「っていうかね、暁さんにお願いがあります!」
「は? 私ですか」
「はい、あなたです」

 こっくりと頷いて、楠原がマジメな顔を作っている。隣に座る龍二も、いきなり言われたゆきも驚いた顔をして彼を見ていた。
 そして、彼が口火を切る。

「ゆきちゃんって呼ばせてください! そんで、よかったらマサにアドレス教えてください!」
「は? なんでオレ!?」
「っていうか、声大きいですよ、楠原さんっ」

 見事に通る声で、楠原が言い出すものだから、ゆきは焦った。周りから少しばかり視線が飛んできている気がする。まあ、衝立があるので、周りの人など一切見えないのだけれども、おそらく見られているだろうな、と思えてしまうのは小心ゆえか、いや、そうとも限らないだろう。
 龍二は龍二で、いきなり自分に振られて驚いている。アドレスを聞いたのは楠原なのに、なぜ自分に教えろと!? おもいっきりダシにされているような気がしてしまうのも無理はなかった。

「お願いしますっ」
「や、やめてくださいよ。別に呼び方なんて別にお好きに」
「やった! マサ、俺やったよ!」
「あ、あー、良かったな」
「マサもちゃんとお願いしろって!」
「へ!?」
「ややややめてくださいっ。楠原さんも真幸さんも、好きに呼んでくれていいですよっ」

 ゆきが両手を顔の前でぶんぶんと横に振る。そんなことを改めて言われたことなど、過去の彼氏ぐらいしか経験はない。というか、高校生のクラス替えじゃあるまいし、「○○って呼んでいい?」もなにもない。なにやら恥ずかしい気がしてしまうのも当然の反応である。

「えーっと…………」
「あと! アドレスをっ」
「お、大声やめてくださいってば!! 教えます、教えますから!」
「よっしゃ!!」

 小さくガッツポーズをして楠原がいそいそと携帯電話を取り出す。ゆきははあ、とかるくため息をついた。なんだろう、このノリは。彼女にとって、未知の世界であるような気がしてならない。
 だが、教えるといったのだから、教えるしかないだろう。

「ちょっとまってください、今友達にメール送ってるところなんで……」
「待つ! 待ってるよ、マサが!!」
「だから何でオレ!」

 大急ぎでゆきはメールを送った。今日は出ているから無理なこと、平気なら夜、ちやの家に行くこと、ただしお泊り限定。
 ちやの愚痴を聞き続けるのをわざわざ夜遅くからしたくはないが、ゆきとしても今日、この場の出来事をちやに訴えたい気持ちがあった。だから、ちやさえよければ、と送ったのだ。後ほど返信が来るだろうから、その間にメールアドレスの交換を始めた。

「……っていうか、さっき真幸さんに教えてって言いましたよね?」
「うん、言った」
「なんで楠原さんが携帯構えてるんですか」
「う! お、俺には教えてくれないの?」
「だって楠原さんが言ったんですよね、真幸さんに、って」

 そう言ってゆきがにっこりと笑う。決して毒のある笑顔ではないのだけれども、口にしている言葉はなかなかにして意地悪だ。
 それを隣で聞いていた龍二がぷっと吹き出した。

「クッシーの負け。どれどれ……えーっと……」

 ぽちぽちと龍二がゆきのアドレスを登録していく。少ししたあと、すぐにゆきの携帯が震えた。ディスプレイには知らないアドレス。そしてメールを開くと『真幸です。よろしく!』と端的な文章が書かれていた。
 いつの間に、という顔をしてゆきが龍二を見ると、彼はにかっと笑った。

「ずるいー……」

 楠原がぼやいている合間に、メールが一件届く。ちやからの返信だ。

 『了解、何時でも良し! よろこんで待機中!!』

 今から待機してるのか! と思わずツッコミたくなるような文章が入っていた。わずかに唇の端をあげてゆきが笑う。それから、楠原にもアドレスを教えた。ゆきも、まさかアドレスを教えたからといってそうメールが来るわけもないだろうし、という軽い気持ちなのだ。
 ゆきは会社員だからそれなりに時間はあるけれど、彼らはそれまでの話によると収録があったり移動があったりで結構毎日忙殺されているらしい。だから余計に、メールが来ることなどないだろうとも思えた。まして、見ず知らずの一般人相手に、と。

「よしっ、登録完了! 今度仲間内の飲み会とか誘ってもいい?」
「え……?」
「こらこら、クッシー。誘っていい? なんて聞いたらイヤです、とは言えないだろうが。そういうのはさり気に誘うほうがカッコいいぞ」
「そうだな、じゃ、そうしよ」
「いやあの、誘うこと前提ですか!」

 思わずツッコんではいるものの、ゆきの表情は穏やかなものだ。唇の端はずっと上がったままだし、楽しげである。それを見て、龍二はほっと息をついていた。最初に会ったあの時のように、つまらないものでないようでよかった、と。
 龍二は龍二なりに気にかかっていたのである。見ず知らずの相手といきなり呑むのはきついだろうな、と。龍二もまた、初対面の相手と親しそうにするのは得意ではない。本当に、楠原サマサマである。口が裂けても本人には言わないけれども。
 まあ、何度も言うが、楠原がいなければ、ゆきと一緒に呑むこともなかったのだろうが。



 楽しい時間というのはあっという間に過ぎていき、軽く、と言っていたはずなのにあっという間に22時を過ぎていた。まあ、飲み会となったら普通といえば普通ではあるけれども、さすがに月曜日からあまり遅くなるのは、後日を考えるとちょっときついものである。
 そろそろお開きに、と口を開いたのは龍二だった。龍二も楠原も明日は早いと言っていたのだ。それに何より、彼らは帰ってからまた仕事があるのだ。台本を読むという仕事が。役を持っている限り、ある意味エンドレスの仕事である。

「今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそいきなりお誘いしちゃってごめんね。つまらなくなかった?」
「とっても楽しかったですよ。まあ、あんまりお二人のお仕事のこと知らなくて申し訳ないですけど」
「いいのいいの、そんなの。普通他人の仕事なんてろくに知らないものだしね」
「そうそう。ゆきちゃんが気にする必要はないっ」

 上機嫌の楠原は、龍二に寄りかかって楽しそうにしている。それほど酔っ払ってもいないようだが、楠原なりに楽しめたらしい。楠原がいてくれたおかげ、ではあるけれど、ゆきも龍二も、彼が楽しそうにしているのを見て顔を見合わせて笑っていた。

「じゃあ、また機会があったら」
「はい、ありがとうございました。お気をつけて」
「ゆきちゃんも。ほら、楠原、帰るぞ」
「おー。じゃ、ゆきちゃん、またねー!」

 ひらひらと手を振りながら、龍二に連れられて楠原も帰っていく。二人と駅で別れて、ゆきは一人、帰り道に着いた。

 『今から帰るよ。多分一時間ぐらいかかるけど』

 ちやにメールを送って、ゆきは電車に乗り込んだ。まだまだ夜は長そうである。明日はお休みしちゃおうかな、とゆきは心の中で思っていた。





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